塩酸は酸性の液体ですよね?
塩化水素という気体が水に溶解した物質で、酸性を示します。
塩酸の化学式はHClですか?
塩酸、塩化水素どちらもHClで表します。
本記事は塩酸の性質と用途について解説した記事です。 この記事では、塩酸の性質や酸性を示す理由について学ぶことができます。また、塩酸と他の物質との反応や用途について、理解を深めることができます。
塩酸の基本的な性質
塩酸といえば、「酸性を示す」「金属と反応して水素を発生する」などの性質があることで知られています。塩酸は単体の名称ではなく、水に塩化水素という気体が溶け込んだ混合物のことを指します。
塩化水素は常温で無色(または淡黄色)の気体で、鼻にツンとくる刺激臭が特徴です。安全データシートによると、融点は約-114℃、沸点は約-85℃です。また、30℃における100mLの水への溶解度は約67gで、水によく溶ける性質であることが分かります。
【外部サイト】
厚生労働省 職場のあんぜんサイト
塩化水素の安全データシートについてはこちら
日本ソーダ工業会
塩酸の安全な取り扱いに関する資料についてはこちら
化学式とモル質量
塩化水素の化学式はHClで、塩酸の化学式もHClで表します。モル質量はおよそ36.46g/molです。水溶液中の塩化水素は電離し、ほとんどが水素イオンH+と塩化物イオンCl–の状態で存在しています。
HCl → H+ + Cl–
塩酸中にはH+が多く存在しているので、酸性を示します。
濃度
市販されている試薬の濃塩酸は、35.0~37.0%のものが多いです。これは、塩酸100gあたりで考えると、塩化水素が35.0~37.0g溶け込んでいて、残りの63.0g~65.0gは水ということを意味しています。mol/Lに換算すると、11.3~12.0mol/Lです(20℃における密度1.18g/cm3を使って換算)。化学実験では、この濃塩酸を水で希釈して希塩酸として使用しています。
ただし、塩酸の入った容器を開封状態で放置すると、溶液の表面から塩化水素ガスが系外に出てしまうので、時間経過とともに塩酸の濃度は小さくなっていきます。塩酸から刺激臭がするということは、塩酸から塩化水素がどんどん出ているということです。
価格
塩酸の価格は、質(塩酸内に含まれる不純物の量)にもよりますが、500mLあたり1000円前後で販売されています。購入に資格等は必要ありませんが、危険な物質なので個人向けには販売されていないようです。どうしても必要な場合は、薬品を専門に取り扱う会社などに問い合わせてみると、対応してくれるかもしれません。
【外部サイト】
関東化学株式会社 HP
塩酸の製品一覧、価格についてはこちら
用途
塩酸の身近な使用例として、トイレ用洗剤が挙げられます。便器に付着する尿石はカルシウムを主成分とする塩基性物質なので、酸性物質で中和、除去することができます。そのため、酸性のトイレ用洗剤には塩酸を主成分とする製品があります。
食品分野では、タンパク加水分解物を作る際に塩酸が使用されます。タンパク加水分解物とは、酸処理によって、タンパク質中の結合を切り、アミノ酸やペプチドに変換したものです。原料としては、大豆などの植物性タンパク質や牛肉などの動物性タンパク質があります。これらを塩酸で処理することで、食品の味をより引き立てることができます。
【外部サイト】
大日本除虫菊株式会社(KINCHO)ホームページ
トイレ用洗剤中の塩酸についてはこちら
味の素株式会社ホームページ
タンパク加水分解物についてはこちら
高杉製薬株式会社ホームページ
塩酸の用途についてはこちら
塩酸の反応
半反応式
塩酸中にはH+とCl–が数多く存在しています。特にCl–は弱い還元剤としての性質を持っており、酸化剤と反応することで塩素Cl2を発生します。
2Cl– ⇄ Cl2 + 2e–
上記反応式によると、Cl–の酸化数は-1、Cl2の酸化数は0です。反応の前後で酸化数が増加しているので、Cl–が酸化されていることがわかります。
金属との反応
塩酸は多くの金属を溶解することができます。塩酸に溶解する金属の例としては、鉄Fe、亜鉛Zn、アルミニウムAlなどの水素H2よりもイオン化傾向の大きな金属が挙げられます。以下、(A)~(C)の3つの反応式を紹介します。
(A) Fe + 2HCl → FeCl2 + H2
(B) Zn + 2HCl → ZnCl2 + H2
(C) 2Al + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2
これらの金属を塩酸中に投入すると、H+が金属から電子を受け取る(還元)ことでH2へと変化し、系外にでていきます(酸化数:+1 → 0)。一方で、金属はH+から電子を奪われる(酸化)ことで陽イオンへと変化し、塩酸中に溶解します(酸化数:0 → +2、+3など)。金属の陽イオンは溶液中のCl–と塩をつくることができますが、これらの塩は水に可溶性であるため、イオンの状態で安定化します。
金属酸化物との反応
塩酸は金属だけでなく、金属酸化物も溶解することができます。
(D) FeO +2HCl → FeCl2 + H2O
(E) Fe2O3 + 6HCl → 2FeCl3 + 3H2O
(F) MnO2 + 4HCl → MnCl2 + 2H2O + Cl2
(D)~(F)のどの反応も金属酸化物から酸素を奪っているので、還元しているように見えます。しかしながら、(D)、(E)については、反応前後におけるFeの酸化数[(D) Fe(II) → Fe(II)、(E) Fe(III) → Fe(III)]は変化していないので、酸化還元反応ではありません。
(F)の反応については、Mn(IV) → Mn(II)へと酸化数が減少しているので、Mnが還元されていることが分かります。その分、溶液中のCl–が酸化されて、Cl2が発生しています。
沈殿、錯体形成反応
硝酸銀AgNO3にHClを加えると、塩化銀AgClとなり、白色沈殿を形成します。
AgNO3 + HCl → AgCl + HNO3
AgNO3は水に可溶性で、20℃で水100gに約250g溶解させることができます。一方で、AgClは水に難溶性で、20℃で水100gに約0.02mgしか溶解しません。そのため、溶液中に溶けきれずに析出し、沈殿となります。この反応は、Ag+やCl–の定性、定量分析に応用されています。
AgClは白色粉末ですが、紫外線を照射すると、還元されて紫~灰色のAg単体が析出します。銀色の金属光沢が現れない理由は、析出してきたAgの粒子径や集合状態がAgの塊と異なるためです。
2AgCl → 2Ag + Cl2
一方で、塩酸や塩化アンモニウムNH4ClなどのCl–を供給できる物質を過剰に加えると、ジクロロ銀(I)酸イオン[AgCl2]–となって再溶解します。
AgCl + Cl– → [AgCl2]–
王水の作り方
濃硝酸と濃塩酸を体積比1:3で混合すると、多くの金属を溶解できる「王水」を作ることができます。王水の作り方や性質の詳細については、以下の記事で詳しく説明しています。興味のある方は参考にしてください。
まとめ
ここまで、塩酸の基本的な性質や他の物質との反応、沈殿の生成などについて、詳しく説明してきました。以下、本記事のまとめです。
塩酸はなぜ酸性を示すのか?塩酸の性質と用途、反応性について詳しく解説!
【塩酸の基本的な性質】
HCl → H+ + Cl–
水と塩化水素の混合物で、H+が大量に含まれているので酸性を示す
塩基性物質の中和や食品添加物としても使用されている
【塩酸と他の物質との反応】
〇Fe、Zn、AlなどのH2よりもイオン化傾向の小さな金属を溶解し、H2を発生する
〇FeO、Fe2O3、MnO2などの金属酸化物を溶解することができる
〇Agと難溶性の塩AgClを形成する → [AgCl2]–で再溶解する