硝酸は酸性ですよね?
強い酸性を示します。
化学式はHNO3ですよね?
その通りです。
二酸化窒素という気体が水に溶けて硝酸になります。
本記事は硝酸の性質と用途について解説した記事です。 この記事では、硝酸の性質や酸性を示す理由について学ぶことができます。また、硝酸と他の物質との反応や硝酸の使用例について、理解を深めることができます。
同類の塩酸については、以下の記事にまとめてあります。興味がある方は、参考にしてください。
硝酸の基本的な性質
化学式とモル質量
硝酸の化学式はHNO3で表します。モル質量はおよそ63.01g/molです。水溶液中では、HNO3のほとんどが水素イオンH+と硝酸イオンNO3–の状態で存在しています。
HNO3 → H+ + NO3–
硝酸中にはH+が多く存在しているので強い酸性を示し、様々な金属を溶かすことができます。硝酸は単体の名称ではなく、水H2Oに二酸化窒素NO2という気体が溶け込んでできる混合物のことを指します。
3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO
濃度
市販されている硝酸は「硝酸 1.38」「硝酸 1.40」「硝酸 1.42」などの表記があり、様々な濃度で販売されています。これらの数値はそれぞれ硝酸の密度を表しており、1.38 g/cm3で60.0~61.0%、1.40 g/cm3で65.0~66.0%、1.42 g/cm3で69.0~70.0%です。mol/Lに換算すると、それぞれおよそ13.1~13.4 mol/L、14.4~14.7 mol/L、15.5~15.8 mol/Lです。
価格
硝酸の価格は、濃度や質(硝酸内に含まれる不純物の量)にもよりますが、500mLあたり1000円前後で販売されています。硝酸は劇物なので購入や取り扱いに資格は必要ありませんが、危険な物質なので個人向けには販売されていないようです。県や市のホームページに毒物及び劇物取締法に関して記載されていますので、そちらに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
【外部サイト】
関東化学株式会社 HP
硝酸の製品一覧、価格についてはこちら
製法
工業的製法
硝酸の工業的製法としては、オストワルト法が知られています。1900年代前半にドイツの化学者であったオストワルトが考案しました。日本では、1928年に初めて工業化されました。
NH3 + 2O2 → HNO3 + H2O ・・・(A)
オストワルト法(A)は以下の3つの工程から構成されています。
①アンモニア(NH3)を酸化し、一酸化窒素(NO)を得る工程
4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O
この反応では、白金ロジウム触媒を使用します。
②一酸化窒素(NO)を酸化し、二酸化窒素(NO2)を得る工程
2NO + O2 → 2NO2
③二酸化窒素(NO2)を水に吸収させ、硝酸(HNO3)を得る工程
3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO
これら①~③の工程をまとめると、(A)の反応式で表すことができます。
【参考文献】
「硝酸の工業的製法と環境対策」 日産化学工業㈱ 米谷 正弘、関 剛康 著
化学と教育 60巻 1号 (2012年) p30-33
硝酸の工業的製法についてはこちら
実験室的製法
適切な材料があれば、実験室レベルで硝酸を作ることもできます。以下の文献には、高校の学生実験で硝酸製造を行った実例が紹介されています。課題となったのは白金触媒に関してですが、自動車排ガス用の使用済み白金触媒を自動車解体業者から入手して使用しています。
【参考文献】
「アンモニアの酸化による硝酸の製法 ーありふれた実験(オストワルド法)を実践例としてー」 和歌山県立 紀の川高等学校 児玉 順彦 著
化学と教育 39巻 3号 (1991年) p338
硝酸の実験室的製法についてはこちら
用途
硝酸の身近な使用例として、ナイロンやポリウレタンの原料が挙げられます。ナイロンやポリウレタンは繊維や衣類をつくるためには必要不可欠な素材です。これらの他にも私たちの生活用品に多く使用されています。
純度の高い硝酸は半導体の洗浄や化学分析用試薬として使用されています。
【外部サイト】
宇部興産株式会社 HP
硝酸の用途についてはこちら
硝酸の反応
硝酸は多くの金属を溶解することができます。硝酸に溶解する金属の例としては鉄Fe、銅Cu、銀Agなどが挙げられます。一方で、アルミニウムAlやニッケルNiなどの一部の金属は、濃硝酸により表面に酸化被膜が形成され不働態化するので、ほとんど溶解しません。
鉄との反応
希硝酸を用いると、Feを溶解することができます。希硝酸との反応条件により、以下のような異なる反応が生じます。濃硝酸に対しては、AlやNiと同様に不働態となります。
Fe + 4HNO3 → Fe(NO3)3 + NO + 2H2O
Fe + 6HNO3 → Fe(NO3)3 + 3NO2 + 3H2O
銅との反応
Cuは濃硝酸にも希硝酸にも反応して溶解します。濃硝酸ではNO2が、希硝酸ではNOが発生します。
Cu + 4HNO3 → Cu(NO3)2 + 2NO2 + 2H2O (濃硝酸)
3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 2NO + 4H2O (希硝酸)
銀との反応
AgもCuと同様に濃硝酸にも希硝酸にも反応して溶解します。濃硝酸ではNO2が、希硝酸ではNOが発生します。
Ag + 2HNO3 → AgNO3 + NO2 + H2O (濃硝酸)
3Ag + 4HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O (希硝酸)
王水の作り方
濃硝酸と濃塩酸を体積比1:3で混合すると、多くの金属を溶解できる「王水」を作ることができます。王水の作り方や性質の詳細については、以下の記事で詳しく説明しています。興味のある方は参考にしてください。
まとめ
ここまで、硝酸の基本的な性質や他の物質との反応について、詳しく説明してきました。以下、本記事のまとめです。
硝酸はなぜ酸性を示すのか?硝酸の性質と用途、反応性について詳しく解説!
【硝酸の基本的な性質】
HNO3 → H+ + NO3–
水と二酸化窒素の混合物で、H+が大量に含まれているので酸性を示す
ナイロンやポリウレタンの原料として使用されている
【硝酸と金属の反応】
〇Fe、Cu、Agなどの多くの金属を溶解することができる
〇Al、Niなどの一部の金属は不働態となり、溶解しない