炭酸ナトリウムの製法、アンモニアソーダ法(ソルベー法)とルブラン法について詳しく解説!

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ammonia-soda_process eyecatch 科学

ソーダ灰って炭酸ナトリウムのことですよね?

そうです。
産業界ではソーダ灰の方がよく使用されています。

どうやってつくられているんですか?

昔はルブラン法で製造されていました。
現在はアンモニアソーダ法で製造されています。

本記事は炭酸ナトリウムの製造方法について解説した記事です。 この記事では、原料から炭酸ナトリウムができるまでの化学反応について学ぶことができます。また、アンモニアソーダ法とルブラン法の工程の違いについて、理解を深めることができます。記事の後半では、学生実験等での簡易的なアンモニアソーダ法についても紹介しています。

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炭酸ナトリウムの種類と用途

炭酸ナトリウム (Na2CO3)は、別名「ソーダ灰」とも呼ばれています。ソーダとはナトリウム(英語: sodium)のことです。見かけ比重が1.0未満の粉末状の軽灰1.0以上の顆粒状の重灰があります。また、人工的に製造される合成灰天然に産出する鉱石を加工、精製して得られる天然灰があります。

Na2CO3の用途の一つとして、ガラスの製造原料が挙げられます。珪砂(主成分: SiO2)、炭酸カルシウム CaCO3とともに高温で溶かして製造します。また、医薬品の原料、アルカリ洗浄剤などの用途で使用されています。

【外部サイト】
日本ソーダ工業会(JSIA) HP 
ソーダ製品の一覧と説明についてはこちら

高杉製薬株式会社 HP
炭酸ナトリウムの用途についてはこちら

炭酸ナトリウムの性質や用途の詳細については、以下の記事にまとめてあります。本記事と合わせて読むと、かなり理解が深まります。

アンモニアソーダ法(ソルベー法)

アンモニアソーダ法とは、工業的にNa2CO3を製造する方法です。1861年にベルギーの化学者、アーネスト・ソルベーによって開発され、ソルベー法とも呼ばれています。

5つの反応

アンモニアソーダ法は以下の5つの反応から構成されています。

NaCl + NH3 + CO2 + H2O ⇄ NaHCO3 + NH4Cl
2NaHCO3 → Na2CO3 + CO2 + H2O

③CaCO3 → CaO + CO2
④CaO + H2O → Ca(OH)2
⑤2NH4Cl + Ca(OH)2 → CaCl2 + 2H2O + 2NH3


①、②は原料からNa2CO3(炭酸ナトリウム)を合成する反応です。

飽和食塩水NaClにアンモニアNH3と二酸化炭素CO2を充分に吹き込むと、炭酸水素ナトリウムNaHCO3 と塩化アンモニウムNH4Clの沈殿が生成します。生成したNaHCO3を加熱分解すると、炭酸ナトリウムNa2CO3、CO2、H2Oが生成します。この反応は固体を加熱すると、固体、液体、気体のすべての状態の物質が発生することで有名で、小中学生の理科でも学習します。


③~⑤は原料となるNH3、CO2を生成する反応です。

炭酸カルシウムCaCO3を加熱し、酸化カルシウムCaOとCO2を生成した後、CaOに水を加えて、水酸化カルシウムCa(OH)2に変化させます。そして、①式の副生成物であるNH4Clと反応させることで、NH3を生成します。①、②式にこれらの反応を加えることで、目的のNa2CO3の製造と原料供給、副生成物の処理を同時に行うことができます。

まとめ反応

上の5つの反応式は1つにまとめることができます。

2NaCl + CaCO3 → Na2CO3 + CaCl2

この反応式を見ると、NaClとCaCO3を混合すればNa2CO3が得られるので、「もっと簡単にNa2CO3を製造できるのでは?」と考えてしまう人がいるかもしれませんが、それは間違いです。なぜなら、この反応は通常条件では進行しないからです。

サンゴや貝殻 (主成分: CaCO3)が海水中でその形状を維持していることからも、通常条件ではNaClとCaCO3が反応しないことがわかると思います。以下に紹介している参考文献「アンモニアソーダ法(ソルベー法)に関連した授業の実際」では、この反応が進行しない理由を熱力学的観点から明らかにしていますので、もっと深く知りたい方は参考にしてみてください。

反応式のまとめ方

①×2+②より
2NaCl + 2NH3 + CO2 + H2O ⇄ Na2CO3 + 2NH4Cl ・・・(A)

③+④+⑤より
CaCO3 + 2NH4Cl CaCl2 + 2NH3 + CO2 + H2O ・・・(B)

(A) + (B)より
2NaCl + CaCO3 → Na2CO3 + CaCl2

【参考文献】
炭酸ナトリウム製造プロセスの現在
㈱トクヤマ 秋山 深平 著
化学と教育 59巻 7号 (2011年) p372-375
炭酸ナトリウムの工業的製法についてはこちら

アンモニアソーダ法(ソルベー法)に関連した授業の実際」 
慶應義塾女子高等学校 教諭 田村 定義 著
化学と教育 59巻 7号 (2011年) p368-371
アンモニアソーダ法の反応と熱力学的考察についてはこちら

ルブラン法

アンモニアソーダ法が導入される前は、ルブラン法が使用されていました。この方法は、1791年にフランスの化学者、二コラ・ルブランによって開発されました。

(1)2NaCl + H2SO4 → Na2SO4 + 2HCl
(2)Na2SO4 + 2C → Na2S + 2CO2
(3)Na2S + CaCO3 → Na2CO3 + CaS

この方法では、まず食塩NaClと硫酸H2SO4を反応させて、硫酸ナトリウムNa2SO4を生成した後、石炭Cの還元力で硫化ナトリウムNa2Sへと変化させます。さらに炭酸カルシウムCaCO3を加えて反応させることで、目的物である炭酸ナトリウムNa2CO3を合成しています。

実際に得られるのは黒灰と呼ばれるCaS、CaCO3、Na2CO3などを含む混合物ですが、Na2CO3のみ水への溶解度が大きいので、水に溶かしてろ過を行うことで分離することができます。黒灰を濾過したろ液を脱水、乾燥すると、固体のNa2CO3を取り出すことができます。

ルブラン法のデメリット

ルブラン法では、(1)式のように反応後に塩化水素ガスHClが発生しますが、当時は特に有用性がなかったため、そのまま大気に放出されていました。また、副生成物である硫化カルシウムCaSは空き地に積まれた状態で風雨にさらされていたので、硫化水素H2Sの発生源になっていました。これらの有害物質により、工場周辺の環境は急激に悪化し、動植物や工業作業者、周辺住民に悪影響を与えていました。

【参考サイト】
Tech Note powered by iPROS
化学工業の歴史1~無機・有機化学工業の基盤成立~:化学工業の基礎知識2
ルブラン法の詳細についてはこちら

日本舎密製造株式会社

日本舎密(せいみ)製造株式会社は、1889年7月に現在の山ロ県山陽小野田市に設立された民間初の化学工場です。舎密(せいみ)とは、オランダ語で化学を意味するchemieの当て字です。のちに日本化学肥料株式会社となり、様々な吸収・合併等を繰り返し、現在では日産化学株式会社として日本の化学産業を牽引しています。

日本舎密製造株式会社では、ルブラン法を用いた炭酸ナトリウムNa2CO3の製造を行っていました。この施設には花崗岩製の塩酸吸収塔と呼ばれる設備があり、発生した塩化水素ガスHClを水に吸収させて塩酸を製造していました。現在もこの吸収塔の一部が史跡として残っており、日本化学会の化学遺産に認定されています。

【外部サイト】
日産化学株式会社 HP
日産化学株式会社の沿革についてはこちら

日本化学会 HP
第1回化学遺産認定 第004号
塩酸吸収塔についてはこちら

【参考文献】
ルブラン法炭酸ソーダ製造と日本舎密製造株式会社
小野田通運株式会社 北嶋 昭 著
化学と教育 64巻 1号 (2016年) p4-7
日本舎密製造株式会社についてはこちら

学生実験でのアンモニアソーダ法の実例

ドライアイスと濃アンモニア水、食塩を準備できれば、簡単に炭酸ナトリウムNa2CO3を合成することができます。濃アンモニア水に食塩を溶解させて飽和状態をつくり、そこに少量ずつドライアイスを投入すると、透明だった溶液が白く濁り、沈殿を形成します。この沈殿が炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの混合物です。純粋な炭酸ナトリウムを得るには沈殿を強熱する必要がありますが、簡易的な実験として試してみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
ソルベーもびっくり!ドライアイスのおまじない 短時間にできるアンモニアソーダ法」 兵庫県立神戸高等学校 教諭 加藤 道夫、灘高等学校 教諭 柴崎 匡泰 著
化学と教育 37巻 6号 (1989年) p634-635
ドライアイスを使ったアンモニアソーダ法についてはこちら

また、反応容器としてポリ袋を使用した実験例もあります。ポリ袋に反応物をすべて入れて振り混ぜることで簡便に反応させることができます。また、袋の膨らみ具合で反応の進行度を判断することができるので、安全に行うことができます。

【参考文献】
簡易型アンモニアソーダ法(ソルベー法)
東京都立八王子東高等学校 主幹教諭 水間 武彦 著
化学と教育 62巻 3号 (2014年) p128-129
ポリ袋を反応容器とするアンモニアソーダ法についてはこちら

まとめ

ここまで、炭酸ナトリウムの製造方法であるアンモニアソーダ法、ルブラン法の各反応式について詳しく説明してきました。以下、本記事の反応工程のまとめです。

炭酸ナトリウムの製法、アンモニアソーダ法(ソルベー法)とルブラン法について詳しく解説!

【アンモニアソーダ法の反応工程】
NaCl + NH3 + CO2 + H2O ⇄ NaHCO3 + NH4Cl
2NaHCO3 → Na2CO3 + CO2 + H2O

③CaCO3 → CaO + CO2
④CaO + H2O → Ca(OH)2
⑤2NH4Cl + Ca(OH)2 → CaCl2 + 2H2O + 2NH3


①、②のNa2CO3を製造する反応、
③~⑤の原料供給、副生成物処理の反応から成る効率的な方法


【ルブラン法の反応工程】
(1)2NaCl + H2SO4 → Na2SO4 + 2HCl
(2)Na2SO4 + 2C → Na2S + 2CO2
(3)Na2S + CaCO3 → Na2CO3 + CaS

HClガスやCaS由来のH2Sガスなどの有害物質が生成

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