過マンガン酸カリウムってKMnO4ですよね?
その通りです
どんな性質がありますか?
相手を酸化する性質が有名です
また、それ自体が指示薬として働く性質があります
本記事は過マンガン酸カリウム、過マンガン酸イオンの性質と酸化還元反応に関して解説した記事です。酸化剤としての性質や、シュウ酸、過酸化水素との反応についてまとめています。
この記事を読んで理解すると、過マンガン酸カリウムの性質について理解を深めることができます。また、半反応式や酸化還元反応、さらには酸化還元滴定まで知識を広げることができます。
過マンガン酸カリウムの性質と用途
過マンガン酸カリウムの化学式はKMnO4で、Mnの酸化数は(+VII)です。Mnの電子構造は[Ar]3d54s2なので、Arと同じ電子配置である(+VII)の状態がMnの最高酸化数と考えられています。高い酸化数を有しているため、自身は化学反応によって還元されやすい状態です。これは言い換えると、反応する相手を酸化する酸化剤として働きやすいということです。
KMnO4は水に溶解すると、カリウムイオンK+と過マンガン酸イオンMnO4–に電離します。
KMnO4 → K+ + MnO4–
KMnO4の固体は濃い紫色をしています。同様に水溶液も濃い紫色をしており、濃度やpHを適切に調製することで、滴定における指示薬として働くことができます。以下のリンクから水溶液の色を確認することができます。
【外部サイト】
やさしい基礎化学 化学メーカーの社員による化学情報ブログ
KMnO4水溶液の色についてはこちら
KMnO4の用途として、有機合成の酸化剤があります。例えば、o-トルエンスルホンアミドを出発原料として、KMnO4で酸化することでサッカリンを合成することができます。サッカリンは人工甘味料として有名で、漬物や醤油などの様々な食品に使用されています。その他にも下水処理や医薬品原料などの用途があります。
【外部サイト】
京都大学OCW 有機化学実験 講義ノート PDF (15ページ目 P157)
サッカリンの合成方法についてはこちら
日本化学工業株式会社 HP
KMnO4の用途についてはこちら
過マンガン酸イオンの酸化還元反応
過マンガン酸イオンの半反応式
マンガンMn自体は様々な酸化状態をとることができるので、条件によって様々な反応を示します。特に0.1N以上の酸性条件下では、MnO4–がMn2+へと変化する反応が進行します。この反応に従って、多くの還元剤と反応します。自身が還元されると同時に、反応する相手を酸化するので、MnO4–は酸化剤としての性質があるといえます。酸化還元滴定に使用されるのは主にこの条件で、KMnO4水溶液を硫酸などで強酸性状態にして使用します。
MnO4– + 8H+ + 5e– ⇄ Mn2+ + 4H2O
弱酸性~塩基性では以下のような反応が生じます。この場合、Mnの酸化数は(+VII)から(+IV)へと還元されるので、酸化剤としての性質は有していますが、二酸化マンガンMnO2が固体として析出します。
MnO4– + 4H+ + 3e– ⇄ MnO2 + 2H2O
過マンガン酸イオンの半反応式の作り方
<過マンガン酸イオンの半反応式の作り方(0.1N以上の酸性条件下)>
MnO4– + 8H+ + 5e– ⇄ Mn2+ + 4H2O
①MnO4–がMn2+に還元される部分は知識として覚えておく。
MnO4– ⇄ Mn2+
②右辺にOが4つ足りないので、水H2O 4つ分で補う。
MnO4– ⇄ Mn2+ + 4H2O
③左辺にHが8つ分足りないので、水素イオンH+ 8つ分で補う。
MnO4– + 8H+ ⇄ Mn2+ + 4H2O
④左辺の電荷が右辺に対して+5多いので、電子e– 5つ分で調整する。
MnO4– + 8H+ + 5e– ⇄ Mn2+ + 4H2O
過マンガン酸カリウムを用いた滴定
濃度決定
調製したKMnO4水溶液を還元剤に加えると、溶液の色が濃い紫色から透明へと変化します。これは、KMnO4と還元剤が反応することによって、Mnが(+VII)から(+II)へと還元されるためです。この色の変化を利用すれば、ちょうど反応が終わるところ(終点)がわかるので、様々な還元剤の滴定に用いられています。
シュウ酸との反応
シュウ酸(COOH)2は正確なKMnO4水溶液の濃度を求める1次標準として使用されます。実験ではシュウ酸ナトリウムNa2(COO)2やシュウ酸二水和物(COOH)2・2H2Oを代用して使用することが多いです。純度が高く、吸湿性もないので、より正確な秤量が可能です。ただし、KMnO4と(COOH)2の反応速度は遅いので、60℃程度まで加温して反応を開始させる必要があります。
【半反応式】
MnO4– + 8H+ + 5e– ⇄ Mn2+ + 4H2O
(COOH)2 ⇄ 2CO2 + 2H+ + 2e–
【化学反応式】
2KMnO4 + 5(COOH)2 + 3H2SO4 ⇄ 2MnSO4 + 10CO2 + 8H2O +K2SO4
上の反応式より、KMnO4と(COOH)2は2:5で反応するので、滴定に使用した(COOH)2の2/5mol分がKMnO4の物質量になります。これにより、未知のKMnO4水溶液の濃度を決定することができます。
過酸化水素との反応
過酸化水素H2O2は相手によって、酸化剤にも還元剤にもなれる物質です。相手がKMnO4の場合、KMnO4の酸化力が強力なため、H2O2は還元剤として働きます。
【半反応式】
MnO4– + 8H+ + 5e– ⇄ Mn2+ + 4H2O
H2O2 ⇄ O2 + 2H+ + 2e–
【化学反応式】
2KMnO4+5H2O2 + 3H2SO4 ⇄ 2MnSO4 + 8H2O + 5O2 + K2SO4
上の反応式より、KMnO4とH2O2は2:5で反応するので、滴定に使用したKMnO4の5/2mol分がH2O2の物質量になります。これにより、未知のH2O2水溶液の濃度を決定することができます。
CODの測定
CODとはChemical Oxygen Demandの略で、化学的酸素要求量といいます。河川や海水内に含まれる有機物の量を数値化したもので、水質の良し悪しを表す指標の1つです。測定原理は、サンプルにKMnO4を加えて加熱することで有機物を完全に酸化し、そのときに消費されたKMnO4の量を滴定で調べるという内容です。詳細は以下のリンクに詳しく書いてありますので、そちらを参考にしてみてください。
【外部サイト】
尾北環境分析株式会社
COD 化学的酸素要求量の詳細についてはこちら
私立・国公立大学医学部に入ろう!ドットコム
KMnO4によるCOD測定の理論についてはこちら
本記事のまとめ
ここまで、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸イオンの性質と酸化還元反応について詳しく解説してきました。以下、本記事のまとめです。
過マンガン酸カリウムの性質と酸化還元反応について解説
【過マンガン酸カリウムの性質】
KMnO4の固体、液体共に濃い紫色でそれ自体が指示薬として作用
有機合成の酸化剤や医薬品原料などの用途
【過マンガン酸イオンの酸化還元反応】
MnO4– + 8H+ + 5e– ⇄ Mn2+ + 4H2O
このときMnは(VII)から(II)へと還元されるので、
強力な酸化剤としての性質
H2O2や(COOH)2と酸化還元反応し、それを利用した濃度決定が可能
水質の指標となるCODの測定も可能