ヨウ素の酸化還元反応、ヨウ素酸化滴定、ヨウ素還元滴定の原理を基本から解説

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ヨウ素はどんな元素ですか?

ヨウ素は原子番号53、元素記号Iで表される
ハロゲン元素です

どんな性質がありますか?

酸化剤、還元剤のどちらとも反応することができます

本記事はヨウ素の酸化還元反応とヨウ素滴定について、わかりやすくまとめた記事です。ヨウ素滴定には、主にヨウ素酸化滴定とヨウ素還元滴定があります。この記事を読んで理解すると、ヨウ素の酸化還元反応とそれを利用した滴定法について理解を深めることができます。

ヨウ素の性質と用途ヨウ素デンプン反応については下の記事で詳しく説明しています。興味のある方は参照してみてください。

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ヨウ素の特徴

ヨウ素は原子番号53、元素記号Iで表されるハロゲン元素です。ハロゲン元素の中で、最もファンデルワールス半径が大きく、電気陰性度が小さいことが特徴です。また、ヨウ素はフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)と比較して、酸化還元されやすいことも知られています。

【外部サイト】
ヨウ素学会 HP
ヨウ素の詳細情報についてはこちら

ヨウ素の酸化還元反応

ヨウ素分子I2は水に溶けにくいので、ヨウ化カリウムKI溶液に溶解して使用します。このとき、I2はKI溶液中のヨウ化物イオンIと反応して、三ヨウ化物イオンI3の状態で安定化しています

I2 + I ⇄ I3

厳密には、ヨウ素の酸化還元反応における主反応物はI3と考えられますが、この記事では理解を容易にする目的で、I3をI2として記載していきます。

ヨウ素は反応する相手によって、酸化剤、還元剤のどちらの働きもすることができます。それは、溶液中のI2が酸化剤として働き、Iが還元剤として働くからです。酸化剤としての強さはそれほど強くないので、強い還元力を持つ物質と反応します。一方、還元剤としての強さは非常に強く、様々な酸化剤と反応することができます。

ヨウ素酸化滴定

(還元剤) + I2 → (生成物) + I

還元剤とヨウ素I2が反応すると、I2はIに変化します。このとき、酸化数は0から-1へと減少しているので、I2は還元されていることが分かります。また、デンプンを加えておくとヨウ素デンプン反応が生じ、呈色した状態から無色に変化するので、終点を容易に判断することができます。この反応を利用して滴定を行うことで、I2と反応した還元剤の濃度を求めることができます。この滴定法をヨウ素酸化滴定といいます(I2と反応する相手が酸化されます)。

還元剤とヨウ素分子の反応

亜ヒ酸

亜ヒ酸H3AsO3とI2の反応は以下の通りです。

H3AsO3 + I2 + H2O → H3AsO4 + 2H+ + 2I

亜ヒ酸H3AsO3(As(III))は酸化されて、ヒ酸H3AsO4(As(V))に変化しています。H3AsO3 : I2 = 1 : 1なので、H3AsO3の物質量は、滴定に使用したI2の物質量と等しくなります。

スズ(II)イオン

スズ(II)イオンSn2+とI2の反応は以下の通りです。

Sn2+ + I2 → Sn4+ + I

スズ(II)イオンSn2+は酸化されて、スズ(IV)イオンSn4+に変化しています。Sn2+ : I2 = 1 : 1なので、Sn2+の物質量は、滴定に使用したI2の物質量と等しくなります。

ヒドラジン

ヒドラジンN2H4とI2の反応は以下の通りです。

N2H4 + 2I2 → N2 + 4H+ + 4I

ヒドラジンN2H4は酸化されて、N2とH+に分解しています。N2H4 : I2 = 1 : 2なので、N2H4の物質量は、滴定に使用したI2の物質量の1/2になります。

ヨウ素還元滴定

(酸化剤) + I → (生成物) + I2

酸化剤とヨウ化物イオンIが反応すると、IはI2に変化します。このとき、酸化数は-1から0へと増加しているので、Iは酸化されていることが分かります。反応により発生したI2をチオ硫酸ナトリウムNa2S2O3などの標準物質で滴定することで、生成したI2の濃度Iと反応した酸化剤の濃度を求めることができます。この滴定法をヨウ素還元滴定といいます(Iと反応する相手が還元されます)。

チオ硫酸ナトリウム

チオ硫酸ナトリウムの化学式はNa2S2O3で、ナトリウムイオンNa+とチオ硫酸イオンS2O32-から構成されています。チオという言葉は、硫黄Sのことを示しています。硫酸イオンSO42-の1つのOがSに置換されているので、「チオ硫酸」イオンという名称がついています。R-SHの置換基をチオールというように、硫黄を含む物質にはチオという名称が使用されます。

性質

チオ硫酸ナトリウムは、無水物(Na2S2O3)五水和物(Na2S2O3・5H2O)の状態で市販されています。無色透明の結晶で、水に非常によく溶けます。下記の安全データシートによると、20℃で水100mLに対し、68g溶解させることができます。

【参考資料】
昭和化学株式会社 安全データシート(SDS)
チオ硫酸ナトリウムの基本情報についてはこちら

S2O32-は銀と相性がよく、安定な錯体を形成します。ハロゲン化銀は難溶性の塩ですが、S2O32-と銀が錯体を形成するので、S2O32-を含む溶液に溶解させることができます

【参考資料】
イオン平衡ー(IX) 若松 貴英 著
臭化銀とチオ硫酸イオンとの反応についてはこちら

ヨウ素分子とチオ硫酸ナトリウムの反応

ヨウ素分子I2とチオ硫酸イオンS2O32-の反応は以下のようになります。

I2 + 2S2O32- → 2I + S4O62-

この反応は反応速度が速く、副反応が起こりにくいのが特徴です。そのため、生成したI2はS2O32-によって、完全にIに還元されます。一方で、S2O32-は四チオン酸イオンS4O62-へと酸化されています

上記の反応式から、I2 : S2O32- = 1:2で反応することが分かります。つまり、I2の物質量はS2O32-の物質量の1/2ということが求まります。この反応を応用すると、様々な酸化剤の物質量を求めることができます。濃度(mol/L)は物質量(mol)を体積(L)で割った値なので、求めた物質量から濃度に換算することも可能です。

酸化剤とヨウ化物イオンの反応

二クロム酸イオン

二クロム酸イオンCr2O72-とIの反応は以下の通りです。

Cr2O72- + 6I + 14H+ → 2Cr3+ + 3I2 + 7H2O

Cr2O72-とIが反応して、I2が発生します。反応式の係数から、Cr2O72- : I2 = 1 : 3ということがわかります。前述の通り、I2 : S2O32- = 1 : 2で反応するので、Cr2O72-: S2O32- = 1 : 6になります。つまり、Cr2O72-の物質量は、滴定に使用したS2O32-の物質量の1/6になります。

ヨウ素酸イオン、臭素酸イオン

ヨウ素酸イオンIO3とI、臭素酸イオンBrO3とIの反応は以下の通りです。

IO3 + 5I + 6H+3I2 + 3H2O
BrO3 + 6I + 6H+ → Br + 3I2 +3H2O

IO3やBrO3とIが反応して、I2が発生します。反応式の係数から、IO3 : I2 = 1 : 3、BrO3 : I2 = 1 : 3ということがわかります。 前述の通り、I2 : S2O32- = 1 : 2で反応するので、IO3 : S2O32- = 1 : 6BrO3 : S2O32- = 1 : 6になります。つまり、IO3とBrO3の物質量は、それぞれの滴定に使用したS2O32-の物質量の1/6になります。

金属銅を溶解すると、銅(II)イオンCu2+に変化します。Cu2+とIの反応は以下の通りです。

2Cu2+ + 4I → 2CuI + I2

2Cu2+とIが反応して、I2が発生します。反応式の係数から、Cu2+ : I2 = 2 : 1ということがわかります。 前述の通り、I2 : S2O32- = 1 : 2で反応するので、Cu2+ : S2O32- = 2 : 2 = 1 : 1になります。つまり、Cu2+の物質量は、滴定に使用したS2O32-の物質量と等しくなります。

酸化剤を直接滴定しない理由

ヨウ素還元滴定では、酸化剤 + Iの反応により発生したI2をS2O32-で滴定することで、酸化剤の濃度を求めます。そのため、「酸化剤をS2O32-で直接滴定すればよいのでは?」という疑問が当然わいてきます。

酸化剤の濃度を間接的に求める主な理由は、

①S2O32-が酸化されすぎて、反応が化学量論的に進行しないから。
②S2O32-が金属などと錯体を形成することがあるため。

①について、酸化剤の強さによっては、S2O32-がS4O62-よりも高い酸化数を有する硫酸イオンSO42-まで酸化される可能性があります。この反応が複雑で定量的に進行しないので、直接滴定するには不向きと言えます。ヨウ素との反応の場合は、ヨウ素の酸化剤としての性質がそれほど強くなく、SO42-まで酸化されることがありません。

②について、前述したように、S2O32-は一部の金属と錯体を形成します。そのため、測定対象によっては、目的物質以外との反応が生じ、正確な滴定量を測定することができない場合があります。

以上の理由により、S2O32-を用いて直接酸化剤を滴定する例は少ないといえます。

本記事のまとめ

ここまで、ヨウ素の酸化還元反応やヨウ素滴定について、詳しく解説してきました。以下、本記事のまとめです。

ヨウ素の酸化還元反応とヨウ素滴定の原理を基礎から解説

ヨウ素の酸化還元反応】
ヨウ素は反応する相手によって、酸化剤、還元剤のどちらの働きもすることができる
I2:酸化剤として働く(還元剤と反応)
I:還元剤として働く(酸化剤と反応)

【ヨウ素酸化滴定】
還元剤をI2で滴定する方法

○亜ヒ酸との反応
H3AsO3 + I2 + H2O → H3AsO4 + 2H+ + 2Iより、
(H3AsO3の物質量) = (I2の物質量)

○スズ(II)イオンとの反応
Sn2+ + I2 → Sn4+ + Iより、
(Sn2+の物質量) = (I2の物質量)

○ヒドラジンとの反応
N2H4 + 2I2 → N2 + 4H+ + 4Iより、
(N2H4の物質量) = (I2の物質量)×1/2

【ヨウ素還元滴定】
酸化剤とIとの反応によって生じるI2を標準物質で滴定する方法

○ヨウ素分子とチオ硫酸イオン(標準物質)の反応
I2 + 2S2O32- → 2I + S4O62-より、
(I2の物質量) = (S2O32-の物質量)×1/2

○二クロム酸イオンとヨウ化物イオンの反応
Cr2O72- + 6I + 14H+ → 2Cr3+ + 3I2 + 7H2Oより、
(Cr2O72-の物質量) = (I2の物質量)×1/3 or (S2O32-の物質量)×1/6

○ヨウ素酸イオン、臭素酸イオンとヨウ化物イオンの反応
IO3 + 5I + 6H+ → 3I2 + 3H2Oより、
(IO3の物質量) = (I2の物質量)×1/3 or (S2O32-の物質量)×1/6

BrO3 + 6I + 6H+ → Br + 3I2 +3H2Oより、
(BrO3の物質量) = (I2の物質量)×1/3 or (S2O32-の物質量)×1/6

○銅(II)イオンとヨウ化物イオンとの反応
2Cu2+ + 4I → 2CuI + I2より、
(Cu2+の物質量) = (I2の物質量)×2 or (S2O32-の物質量)

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