ヨウ素はどんな元素ですか?
ヨウ素は原子番号53、元素記号Iで表される
ハロゲン元素です
どんな性質がありますか?
デンプンと反応して青色になる性質が有名です
本記事はヨウ素の性質やヨウ素デンプン反応について、わかりやすくまとめた記事です。この記事を読んで理解すると、ヨウ素の特徴や用途を押さえることができます。また、デンプンによって呈色する理由について理解を深めることができます。
ヨウ素の性質と用途
特徴
ヨウ素は原子番号53、元素記号Iで表されるハロゲン元素です。分子式はI2で、他のハロゲン元素と同様に、二原子分子を形成します。常温、常圧では光沢のある黒紫色の固体で、昇華性を有しています。ヨウ素の結晶写真については、以下のサイトで確認することができます。
【外部サイト】
結晶美術館
ヨウ素の結晶についてはこちら
ヨウ素原子は電子を一つ失って、1価のヨウ化物イオンI–になることができます。例えば、ヨウ化カリウムKIを水に溶解すると、電離してカリウムイオンK+とヨウ化物イオンI–になります。
KI → K+ + I–
ヨウ素の結晶は水に溶けにくい性質があります。水への溶解度は25℃で1.34mmol/Lなので、重量に換算すると1Lに約0.34gしか溶解しません。しかしながら、ヨウ化カリウム溶液にはよく溶解します。溶液中のヨウ化物イオンI–と反応して、三ヨウ化物イオンI3–を形成し、安定化するためです。
I– + I2 ⇄ I3–
ヨウ素は反応する相手によって、酸化剤、還元剤のどちらの働きもすることができます。厳密に言うと、I2もしくはI3–が酸化剤として働き、I–が還元剤として働きます。酸化剤としての強さはそれほど強くないので、強い還元力を持つ物質と反応します。一方、還元剤としての強さは非常に強く、様々な酸化剤と反応することができます。
【外部サイト】
ヨウ素学会 HP
ヨウ素の詳細情報についてはこちら
用途
ヨウ素には殺菌作用や消毒作用があるので、消毒薬やうがい薬に使用されています。例えば、ヨードチンキはエタノールにヨウ素、ヨウ化カリウムを溶解した消毒薬です。また、ポピドンヨードは、ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体のことです。刺激や細胞組織へのダメージが少ないので、うがい薬だけでなく手術時の消毒薬としても使用されています。
ヨウ素は細胞表面の置換基を酸化することができます。この作用により、菌やウイルスを構成するタンパク質を変質させ、元の機能を失活させることができます。酸化力が強力すぎると人の細胞も壊れてしまうので、そういう意味では、ヨウ素は人体にとってバランスの良い酸化力を有する物質といえます。
【外部サイト】
小林製薬 HP
ヨウ素の殺菌効果についてはこちら
ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料として、人体に重要な元素です。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を調節する働きがあります。新陳代謝とは、活動するためのエネルギーを作ったり、古くなった細胞を作り変えたりすることです。
ヨウ素は昆布やわかめなどの海藻に多く含まれており、1日に約0.13mg摂取することが推奨されています。
【外部サイト】
伊藤病院 HP
甲状腺ホルモンの働きについてはこちら
環境省 HP
ヨウ素の摂取量についてはこちら
ヨウ素デンプン反応
デンプンにヨウ素液を加えると呈色する反応をヨウ素デンプン反応といいます。小中学校では、植物の光合成によってつくられたデンプンを確認する実験や、デンプンを消化酵素で分解し、糖に変える実験で学習します。
デンプンにはアミロース、アミロペクチンが含まれています。これらはいずれもグルコースという分子がいくつもつながってできています。アミロースは直鎖状、アミロペクチンは枝分かれした構造をしています。
これらの物質がI3–と反応して安定化することで、呈色します。
【参考文献】
ぶんせき 2007年 5号 p239-p244
ヨウ素デンプン反応の応用例についてはこちら
ヨウ素液
ヨウ素(I2)をヨウ化カリウム水溶液(KI)に溶かして調製した褐色の溶液をヨウ素液といいます。デンプンに接触すると赤紫色や青色に変化するので、デンプンの有無を調べることができます。光が当たると分解してしまうので、褐色瓶などの光を遮断できる容器に保管します。
ヨウ素液は使用する溶媒によって様々な色になります。例えば、クロロホルムやヘキサンでは紫色、ベンゼンでは赤紫色、水やエタノールでは褐色を示します。この違いは溶媒中におけるヨウ素の安定状態が異なることに起因しています。詳しくは以下の文献に記載されていますので、興味のある方は参照してください。
【外部サイト】
化学教育 18巻3号 p230-p234 (1970年)
ヨウ素溶液の色についてはこちら
呈色する理由
前述した通り、デンプンはアミロース、アミロペクチンから構成されています。これらにヨウ素液を加えると、アミロースでは青紫色、アミロペクチンでは赤紫色に変化します。この違いは、グルコース鎖長に起因します。
アミロースはグルコースが直鎖状に結合しているので、分子長が長く、多くのI3–が結合することができます。一方、アミロペクチンはグルコースが枝分かれして結合しているので、分子長が短く、その分結合できるI3–の量が減少します。これらの構造的違いにより、呈色に違いが現れます。
以下の文献では、ヨウ素デンプン反応の発色に関して、分光学や分子動力学計算を使用して明らかにしています。少し難しい内容ですが、ヨウ素デンプン反応の機構について詳細に記載されています。
【参考文献】
化学と教育 63巻5号 p228-p231(2015年)
ヨウ素デンプン反応の発色のしくみについてはこちら
本記事のまとめ
ここまで、ヨウ素の性質と用途、ヨウ素デンプン反応について、詳しく解説してきました。以下、本記事のまとめです。
ヨウ素の性質、ヨウ素デンプン反応について解説
【ヨウ素の性質と用途】
原子番号53、元素記号Iのハロゲン元素
常温常圧ではI2の状態で安定し、黒紫色の固体で昇華性を有する
海藻に多く含まれ、甲状腺ホルモンの原料となる
うがい薬や消毒薬に含まれている
【ヨウ素デンプン反応】
デンプン中のアミロースやアミロペクチンと三ヨウ化物イオンI3–が反応
グルコース鎖の分子長によって呈色が異なる